”突然キャンキャン泣いてうずくまる” ”突然後ろ足が、腰が立たなくなる” ”少しづつ後ろ足がふらつく” ”抱くと痛がる”
などが椎間板ヘルニアの症状であり、人間に起こる椎間板ヘルニアの様に、犬や猫にも起こります。
はっきり言って”経験した物にしか分らない痛み”ですね。この文書をお読みいただいてる方自身がヘルニア経験者なら頷いてくださるはすだが。(ちなみに院長はヘルニア経験者であり、ヘルニアの犬にはいつも以上に優しくなってしまうのだが)
脊椎(背骨:首や腰の骨ってこと)の1個1個の間には、クッション機能を持つ椎間板といわれる物質があります。これが色んな原因で脊椎側に飛び出し、脊椎の中を走る脊髄神経を圧迫する病気です。頚にも胸にも腰にも起こり、飛び出した椎間板物質が当たった脊髄神経の部位により、動きたがらない・四肢麻痺・後肢麻痺・排尿障害・排便困難・痛みなどの神経症状引き起こしてきます。
「診察室での診断」
一般身体検査:動物の意識状態、行動、歩様、触診など注意深く観察します。また、飼い主さまが気付く状態や排便、排尿の状態もお聞きします。
神経学的検査:意識状態、姿勢反応、脊髄反射、脳神経検査、知覚(痛みの有無)などを診ます。これらは特殊な検査ではありません。診察室で獣医師が動物の体を色々触って検査します。
⇒以上の診察で、脊髄疾患(椎間板ヘルニアは沢山ある脊髄の病気の一つです)なのか否か、また病変の位置決め(ヘルニアがどこの部位に起こっているのか)を行います。そして治療指針を決める為に、今の症状がどれぐらい悪いのかといったグレード分けを行います。
「検査」 以下の検査は、治療として手術を前提にした場合に行います。
血液検査:動物の状態を把握します。
レントゲン検査:普通のレントゲン検査で脊椎それぞれの間隔や骨の変化の有無などを診ます。問題の椎間板物質や脊髄神経はこれでは観察できません。ヘルニア以外の病気で同じような症状を出す病気(変形性脊椎症、椎体炎、骨の腫瘍など)が無いか見ます。また、レントゲン検査で写らないはずの椎間板の中心にある髄核が石灰化して見えているかどうかも診ます。
脊髄造影検査:脊椎の中を走る脊髄神経を浮かび上がらせ、椎間板物質の飛び出した場所(病変部位)を特定します。その場所を手術していくわけです。動物はじっとしていてくれませんので全身麻酔をして検査します。当院で行える検査です。
白い2本の線が間が脊髄神経であり、白い線がとぎれている部位に椎間板物質の脱出、圧迫が起こっています。
以下の写真は、背側から骨の腫瘍によって脊髄神経の圧迫が起こっている写真です。
MRI検査:脳や脊髄の病気はMRI検査が一番適しています。脊髄造影検査で、殆どどこの部位で起こっているのか分ります(95%判断できます)が、MRI検査の方がよりわかりやすく(98%)、また重度の脊髄損傷(手術不適)が診断できます。この検査も全身麻酔をして行います。当院ではこのMRI検査は行えませんので、近隣の検査センターや病院をご紹介しております。MRI検査は、検査費用が5万円は掛かりますので脊髄造影検査のみにするか、MRI検査をお受けになるかは、飼い主様に必ず選択してもらっております。当院での実績では約20%の方が選ばれております。お気軽にご相談ください。
「治療」
内科療法:約1ヶ月の絶対安静(ケージの中に閉じ込める)が一番大切です。安静が脊髄の炎症を和らげてくれます。その補助療法として、抗炎症剤の投与とリハビリを行います。獣医師によりリハビリの計画を作成させていただいております。
外科療法(手術):脊椎を削って飛び出した椎間板物質を摘出し、脊髄神経の圧迫を取ります。片側もしくは背側椎弓切除術を行います。当院では頚部のヘルニアにも、片側椎弓切除術で対応しております。
上が術前のモデルです。下の写真の様に病変部位の前後の骨を削って神経を露出し、飛び出した椎間板物質を取り除きます。
以下の写真は、手術で取り除かれた脱出し脊髄神経を圧迫していた椎間板物質です。
「リハビリ」
内科療法、外科療法にかかわらず、リハビリテーションが必要です。特別な器具を使わずとも飼い主さんが行える方法を指導させていただいております。動物とスキンシップをとりながら楽しくそして根気強く行ってください。
「予後」
1頭1頭、それぞれの犬にとってさまざまな症状、重症度があります。その症状と重症度によって治療法や治る治らないの見積もり(予後)が全く違います。
他の病気と同じでなのですが、知り合いの同じ病気の犬と簡単に比べないでください。その子その子で治療方法やその後の予後がまったく違います。自分の子がどのような程度で、どの治療を施してやり、どの程度が期待できるのかをしっかり把握しなければなりません。分るまでご質問ください。分るまでご説明させていただきます。
犬や猫の椎間板ヘルニアは、人間とは比べ物にならないほど激しく重度な症状を呈する場合が非常に多いです。人間の椎間板ヘルニアの場合、後肢の完全な麻痺・排尿排便障害・痛覚の完全消失までの症状まで進行して行く事はそれほど多くはありませんが、犬の場合は非常に多く見受けられます。それゆえ、治癒が悪いものが想像以上に多いのも事実です。しかし、痛みがひどく、後肢がふらつく、起立歩行可能、痛みも分るといった場合は80-90%は治ることが可能です。
治療の方法にかかわらず、その動物の脊髄神経の圧迫による炎症の程度が一番予後(治るのか治らないのか)に関係しており、受診時にそれが判断できる場合もあれば、数日~数週間かけた変化の過程で判断できる場合もあります。手術を怖がるより、手術のチャンスがあるうちに(進行して痛みも分らなくなる前に)行うのが良いでしょう。
①飼い主さんの早い発見と早い受診が一番大切、②経過を見ながらの絶対的な安静、③その次に状態の程度(グレード)に伴って内科療法を選ぶのか手術を選ぶのかをしっかり見極める事、④手術を決心したら早期に行う事、⑤根気強いリハビリテーション
以上が大切なポイントです。
動物の痛みや麻痺は、飼い主にとっても獣医師にとっても分りにくいものです。焦らず、でもしっかりと見守りましょうね。