院長の寺田です。
政府の重要課題のひとつに掲げられているのがTPPへの参加です。TPP:環太平洋戦略的経済連携協定とは、太平洋を囲む国々による経済の自由化を目的とした多角的・多目的な経済協定です。アメリカ、カナダ、ニュージーランドオーストラリア、ベトナムなど9カ国が参加を目指しています。(中国、ロシア、韓国などは参加していないので何処が”環太平洋”なのかなって思ってしまいますが。)
TPPより先に、韓国ではFTA、カナダではNAFTAと言われる経済協定が行われているのですが、その結果、この2国では見るも無惨な畜産業の廃退が起こっています。特に韓国の現状は大変なことになっています。
自国の”食”を守ることは、やはり経済活動とは別の視点から見なければいけないように私は感じています。
私は、動物病院を営む小動物獣医師です。一般的には獣医さんは犬猫のペットのお医者さんと捉えられているようですが、獣医師の仕事の中で一番大切な仕事は、”食の安全を守る”ことです。農業、畜産、水産業に携わる獣医師が一番多く、その社会的重要性は年々増すばかりです。
さて、今月ご紹介する図書は、日本の家畜を紹介した本です。一般向けに簡潔かつ分かりやすく、そして図説として美しくまとめられた物です。
「日本の家畜・家禽」 監修・著 秋篠宮文仁・小宮輝之
名前を見て気づかれると思いますが、そうです、あのとってもお髭の似合う殿下、秋篠宮文仁殿下が共著で書かれた物です。皆さんご存じの通り、皇室ご一家は大変動植物へのご関心、ご研究が盛んなご一家です。秋篠宮殿下も東大総合博物館研究員、日本動植物水族館協会総裁でいらっしゃいます。
しかし、皆さんご安心ください。この本は殿下の名前だけで売っている物ではありません。日本の家畜、ウマ・ウシ・ブタ・ニワトリなど日本の在来家畜・家禽と国内の外来種、約300種類、500内種を収録してあります。
現在の姿だけを説明するのではなく、その家畜の導入・由来などからその歴史が語られ、それぞれの特徴がとても分かりやすく簡潔にまとめられています。また、野生動物と同様にに絶滅が危惧されている家畜、特に日本の在来馬や日本鶏の一部について種の保全を訴えるかのような内容も記載されています。家畜は人間の歴史と共に歩んできた生き物であり、その遺伝的資源としての重要性を語られているのだと思いました。
多様な種が存在するのは、人間も含む地球上の生物の存在にとって大変重要な事なのです。政治の世界と同じで一極独裁の様相を呈すると、歴史が語るように、良い事はありません。まかり間違えば、絶滅につながります。
この本を読むと、何も他国から農水産物をせっせと買うことばかり考えずに、自国での今ある素晴らしい生物学的資源をもっと有効にそして大切に育てることが大切ではないかと考えさせられました。
スミマセン、そんな政治的な話は一切書かれていませんよ。でもそんな事すら考えてしまうほど日本の家畜について網羅されている本です。
ニワトリの章のところには、皆さんご存じだとは思います、江戸時代中期の画家、伊藤若冲の群鶏図が記載されています。家畜の本にあんなにも素晴らしい絵を選んで載せてあるんですよ。皆さん、見たくなったでしょ?!
日本が誇る名作の絵の中に、今は絶滅してしまった品種を見ることで貴重な資料だと書かれていました。
この部分だけでも素晴らしい!
殿下感服いたしました。